その他

ウェブサイトの書き込みで名誉、プライバシーを侵害された場合、一定要件の下、サイト運営会社に対して、書き込みをした人を特定する情報の開示を求めることができるという法律があります。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の委任を受けた特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律という長い名称ですが、簡易には、プロバイダー等責任制限法といっておきます。googleやFacebookに対しては従来から認められていましたが、携帯電話のSMSについて、携帯電話会社に対しても認めたのがこの判例です。何が問題かというとSNSのアカウント情報はメールアドレスであることが多いですが、SMSの場合、本人情報は携帯電話番号そのものだということです。判決は、メールアドレスと携帯電話番号を区別しないといけない理由はないとして、発信者情報の開示を認めました。
東京地裁令和元年12月11日判決(判例タイムズ№1487  233頁)
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の委任を受けた特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)3号の「電子メールアドレス」にSMS(ショートメッセージサービス)用電子メールアドレスが含まれるとした事例。
1 本件は、インターネット所の投稿サイトに氏名不詳者がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告らが、当該投稿をした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求検討を行使するため、当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダーである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償制限及び発信者情報開示に関する法律(以下、「プロバイダー責任制限法」という。)4条1項に基づき、当該投稿の発信者らに係る情報の開示を求めた事案である。原告らは、①氏名又は名称、②住所、③電子メールアドレス(SMTP)に加え、④SMS用電子メールアドレスを、開示を求める発信者情報の対象とした。なお、SMS(ショートメッセージサービス)とは、携帯電話やPHS同士で文章をやり取りするサービスであり、SMSの送受信においては、電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能するものである。
2 本件における主たる争点は、プロバイダー責任制限法4条1項によって開示の対象となる発信者情報に、SMS用電子メールアドレスが含まれるか否かである。この点に関する法律および総務省令の定めは複雑であるが、整理すると次の通りである。(1)プロバイダー責任制限法4条1項柱書は、開示請求の対象となる発信者情報について、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。」と定め、これを受けて、(2)平成14年総務省令3号は、「発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)」を発信者の特定に資する情報の一つとして定めている。平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスも含まれるか否かは、その文言上、一義的に明確ではない。一方、(3)プロバイダ責任制限法3条の2第2号は、「電子メールアドレス等」について、「公職選挙法142条の3第3項に規定する電子メールアドレス等をいう。」と定義しているところ、(4)公職選挙法142条の3代3項は、「電子メールアドレス等」の定義として、「電子メールアドレス」(到底電子メールの送信の適正化等の関する法律第2条第3号に規定する電子メールアドレスをいう。以下同じ。)その他のインターネット等を利用する方法によりそのものに連絡をする際に必要となる情報」をいうと定めている。そこで、(5)特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(以下、「特定電子メール法」という。)2条3号を見ると、「電子メールアドレス」を「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の情報を使用する通信端末機器の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。」と定義しており、これを受けて、【6】特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令(平成221年総務省令第85条)では、1号において、SMTPが用いられる通信方式が、2号において、「携帯して使用する通信端末機器に電話番号を送受信するためにおmちいて通信文その他の情報を伝達する通信方式」すなわちSMS用電子メールアドレスが用いられる通信方式が規定されている。このような条文構造から、特定電子メール法及び公職選挙法の定義を引用しているプロバイダ責任制限法3条ノ2第2号の「電子メールアドレス等」にSMS用電子メールアドレスが含まれることは文理上明確であるが、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」にSMS用電子メールアドレスが含まれるか否かは、同項が引用する平成14年総務省令の解釈によることとなる。被告は、SMS用電子メールアドレスの開示は電話番号の開示と同義であり、これを認めることは、平成14年総務省令の制定及び改正の経緯や立案担当者の意思に反すること、プロバイダ責任制限法3条ノ2の趣旨と、同法4条1項及び平成14年総務省令が異なることなどを理由に、平成14年総務省令の定める「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスが含まれるとは解釈できないと主張した。
3 本判決は、反対説の立場に一定の理解を示しつつも、概要次の通り理由から、SMS用電子メールアドレスが平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」に該当すると解するのが相当であると判示した。すなわち、本判決は、①法解釈の予測可能性や法的安定性との観点に照らせば、同一の法律内における同一の用語の意義は、別段の定めがない限り、統一的に解釈するのが原則というべきである、②電話番号が発信者情報として開示の対象となるのは、あくまでもSMS用電子メールアドレスとして利用される限りにおいてであって、電話番号が一般的に開示の対象となると解釈されるわけではないことからすれば、SMS用電子メールアドレスの開示を認めることが、平成14年総務省令が発信者情報と限定列挙とした趣旨に反するとはいえないこと、③通常の電子メールアドレス(SMTP電子メールアドレス)破壊時の対象となるが、SMS用電子メールアドレスとして利用され得る電話番号について開示対象外であるとする実質的な根拠は乏しく、総務省の立案担当者の意思に照らしても実質的な根拠が乏しいとの結論を左右するものではない上、SMS用電子メールアドレスとして利用される得る電話番号に関してはSMTP電子メールアドレスよりもプライバシー及び通信に秘密の保護の要請が高いということもできないことなどを解釈理由として挙げている。なお、令和2年総務省令第82号により、平成14年総務省令第57号は改正され、発信者の電話番号を開示の対象とする権利の侵害に係る発信者情報として追加された。