その他

 特殊詐欺の被害者が、特殊詐欺の実行者(受け子)だけでなく、特殊詐欺グループの背後にいた広域暴力団の組長に対して損害賠償の請求を求めたものです。いわゆる暴力団対策法では、暴力団構成員の威力を利用した資金獲得行為によって被害を受けた人は、直接の行為者だけでなく、その暴力団が所属する広域暴力団の組長に対しての損害賠償請求を認めています。特殊詐欺の場合、暴力団との関係が不明であることが多いのですが、暴力団構成員の関与が明らかになれば、本件のように、暴対法に基づき、組長に損害賠償請求できることになります。直接の行為者はお金を持っていないのが普通ですので、組長に対して請求できるのは被害回復として望ましいです。ただし、「威力利用」といえないといけないのですが、本件の結論はそこはあまり厳密に判断していないようです。

東京地裁令和元年6月21日判決(判例タイムズ№1487  245頁)
 暴力団の構成員が関与した特殊詐欺について、当該構成員が所属する暴力団の代表者の暴力団対策法上の責任を肯定した事例
1 事実の概要
  原告らはそれぞれ、息子に成りすました者から電話を受け、緊急に金銭を必要としている事態にある旨を告げられその旨誤信して、金員を指示された通りに振り込みこれを詐取された(以下、このいわゆる特殊詐欺を「本件各詐欺」という。)。本件は、本件各詐欺をした特殊詐欺グループに属する者が指定暴力団Y会(以下、「Y会」という。)の惨事組織の構成員であり(以下、この構成員を「本件構成員」という。)、暴力団の威力を使用して資金獲得行為を行うについて本件各詐欺をしたとして、原告らが、Y会の代表者(会長)である被告に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下、「暴力団対策法」という。)31条の2本文又は民法715条1項本文に基づき、原告らが詐取された金員相当額の損害賠償を求めた事案である。中心的争点は、本件各詐欺外力利用敷金獲得行為を行うについて他人の財産を侵害したものであったか(暴力団対策法31条の2本文)である(なお、本判決においては民法715条1項の使用者責任については判断されていない。)。この点について、原告は、暴力団員が、資金獲得を行う組織の内部統制の維持のために、組織の内部の者に対し、自らが指定暴力団に所属していることを認識させた状態の下で、その影響力を利用して、指示・命令に従わずに裏切り行為をしたときには組織的な暴行・脅迫が加えられる可能性があることを認識させることによって、当該犯行グループの指示・命令又は規律の実効性が高まる方法で威力を利用する場合も、暴力団対策法31条の2本文にいう「威力を利用して」」に当たるなど主張した。これに対し、被告は、簿力団対策法31条の2本文の威力利用敷金獲得行為に係る「威力を利用して」は、被害者に対して威力を行使することを意味するものと限定的に解釈すべきであるとして、本件構成員は本件各詐欺の被害者とは全く接触していないのであるから、暴力団対策法31条の2本文にいう「威力を利用して」に当たるということはできないと主張した。
2 本判決の判断
   本判決は、暴力団の構成員の多くが、典型的な威力利用資金獲得行為に対する種々の規制、取り締まりを回避して新たに資金獲得源を確保すべく、暴力団の威力の利用を背景として特殊詐欺を実行しているという実態があり、このような実態は社会一般に認識されていたこと、本件各詐欺は、特殊詐欺グループが管理する預金口座に金員を振り込ませるという組織的・計画的なものであって、暴力団高構成員が従事・加担し、暴力団の威力の利用を背景として資金を獲得する活動に係るものに痛有する類型であるということができることを指摘した上で、本件各詐欺は、いずれも、Y会指定暴力団員であった本件構成員(なお、本件構成員がY会指定の暴力団員に該当するかもどうか自体も争点になっており、本判決はこの点を肯定した。)がこれを実行した以上、Y化の構成員による威力利用資金獲得行為と関連する行為であるというほかなく、威力利用資金獲得行為を行うについて他人の財産を侵害したものといわなければならないとして、本件各詐欺が、Y会の「威力利用資金獲得行為を行うについて他人の財産を侵害したものといわなければならないとして、本件各詐欺が、Y会の「威力利用資金獲得行為を行うについて」(暴力団対策法31女の2本文)されたものであることを認めた。また、被告の主張に対する応答として、本件構成員と原告らが直接接触せず、Y会の威力が被害者である原告らに示されなかったからといって、本件各詐欺が威力利用資金獲得行為を行うにつちえされたものであること(威力利用資金獲得行為との関連性)が否定されることにはならないとした上、被告が免責を得るためには、暴力団対策法31条の2第1号または第2号所定の事由を主張・立証するしかないことも指摘した。